しばらく無言で歩いた。

行く宛てなんてないから、むやみやたらに住宅街の中を歩く。

お兄ちゃんはそんなわたしのあとを追うようにして、どこまでもついてきた。

なにを……やってるんだろう。

これじゃあ家に帰りたくないからと、駄々をこねるただの子どもと同じだ。

なんだかとてつもなくバカなことをしているような気になって、だんだんと後ろめたさが増してくる。

わたしが悪いの……?

親にウソをついて勝手に出かけたことは悪いと思ってる。

だけど……でも、行きたかったんだ。

お母さんに言うときっと反対される、そう思ったから黙ってお祭りに出かけた。

いけないことだということは頭ではわかっていたし、ただお母さんを説得するパワーがわたしにはなかっただけだ。

冷静になって考えてみると、自分がしたことがどれだけ子どもじみていたことかを理解した。

「お兄ちゃんは……いいな」

ついボソッと本音が漏れる。

もうわたしの中には怒りも憎しみも存在しない。

ただ純粋にいいなと思う気持ちだけ。

それはもうどうにもならないと悟ってしまった、諦めにも似た気持ちと同じなのかもしれない。

わたしもお兄ちゃんのようになんでも器用にこなせる器量を持って生まれたかった。

「悩みなんて、ないよね……? 死にたいと思ったこととか、逃げ出したいと思ったこととか……ない、よね」

空を見上げながらひとりごとのようにつぶやく。

夜空には三日月が浮かんでいた。

どれだけ手に入れたいと願っても、決して手に入らない。

「なに、言ってんだよ。俺だってただの人間だっつーの。それなりに思春期を乗り越えてきたし、なにもなかったわけじゃない」

「それは、そうかもしれないけど……お兄ちゃんみたいに世の中うまく生きられたら、わたしだって……」

こんなに苦しまずに済んだんだ。

「俺は琉羽が羨ましいけどな」

「はぁ? なんで?」

思わず鋭い目を向ける。

そんなことを言うお兄ちゃんが理解できなかった。

「なんでって……俺はおまえ以上に期待されてプレッシャーが半端なかったんだぞ?」

「プレッシャー……お兄ちゃんが?」

お母さんにあれだけ期待を寄せられていたら、それは当然のことなんだろう。

だけどお兄ちゃんは、余裕しゃくしゃくでなんでも器用にこなしていたじゃん。

大した努力をしなくても、なんでもそつなくこなす優等生。

それは今も変わらず、順風満帆な人生を送っている。

それが、わたしのお兄ちゃん。

そんな目を向けると──。なぜかはぁとため息を吐かれた。