「はぁ? おまえを置いて帰れるわけないだろ。俺が父さんと母さんに怒られるっつーの」
「怒るわけないよ。わたしの心配なんて、するわけないんだからっ。じゃあね」

歩き出すとさらに膝に違和感を感じた。

ズキズキと痛い。

確認していないけど、きっと怪我をしてる。

「こら、待て」
「離してよっ!」
「往生際の悪い奴だな」
「うるさいっ!」

引き止めようとする腕を勢いよく振り払う。

もう関わらないで、放っておいてよ。

「どこに行く気だよ?」
「どこだっていいでしょ! お兄ちゃんには関係ないっ!」

強がってみるものの、わたしには行く宛てもなければ、頼れる人もいない。

こんな夜にひとりでどうしよう。

ズルズルと足を引きずるようにして歩く。

「おまえも見ただろ? 母さん、落ち込んでた」

お兄ちゃんは無理にわたしを連れ帰ることを諦めたのか、ゆっくりとわたしのあとを追ってきた。

「そりゃ、自分の娘にあんなこと言われたら傷つくよ」

うるさい、うるさい、うるさい。

お母さんが落ち込むわけないでしょ。

そんなこと、あるはずないんだ。

「俺は琉羽の気持ちもわかるし、べつに母さんの肩を持つわけでもないけど……」

「じゃあ、なにも言わないで。お兄ちゃんにお説教なんてされたくない」

「はぁ、強情っぱりめ」

「ついてこないでよ」

どうしてわたしに構うのよ。わたしなんかいてもいなくても同じでしょ?

「おまえが家に帰るまでは、這ってでもついていく」

この足じゃ走って逃げることもできない。

観念したわたしは、それ以上なにか言うのはやめた。