「おにい、ちゃんなんて……嫌い……っ。大っ嫌い……」
「そう何度も言うなよ、俺だって傷つくんだからな?」
「…………」
ウソつき。バカだって、心の中で笑ってるくせに。
心の中で悪態をつく。
お兄ちゃんはそれ以上はなにも言わなかったけど、わたしの背中に置いた手を退けもしなかった。
「おまえは真面目すぎるんだよ」
お兄ちゃんはわたしの背中に手を当てたままそんなことを言った。
なにを言うの?真面目すぎる?
それはお兄ちゃんでしょ?
意味が、わからないよ。
「母さんの言葉をまともに聞くから、しんどくなるんだよ。適当に聞き流して、いい子のフリしてりゃ、ここまで思い詰めることもなかったのに……」
「そ、れは、お兄ちゃんが……できるから、でしょ? 適当に聞き流してうまくやれるほど、わたしは……器用じゃないの!」
イライラして思わず顔を上げた。
すると、どこか寂しそうな表情を浮かべるお兄ちゃんの顔が映った。
「ま、そうだよな。器用じゃないから、ここまで苦しんでるんだよな」
「……っ」
なんなのよ、ムカつく。
やっぱりお兄ちゃんは嫌いだ。
「ほら、立てよ。帰ろうぜ」
「ひとりで帰ればいいでしょ?」
差し伸べられた手に背を向け、コンクリートに手をついてゆっくりと立ち上がる。
膝がズキンと痛んだけど、気づかないフリをした。