「見下してた……くせにっ!」

ずっとお兄ちゃんのことが嫌いだった。

お兄ちゃんさえいなければ……比べられることもなく、もっと楽に生きられたかもしれない。

完璧なお兄ちゃんに、わたしはいつだって敵わなかった。

どれだけ努力しても無意味で、いつしか……頑張ることをやめてしまった。

お兄ちゃんさえいなければ……わたしだって、頑張ることができたんだ。そう、お兄ちゃんさえいなければ……。

「お兄ちゃ、なんて、だい、っぎらい……!」
「…………」

しまいには鼻水も出てきた。

「言いたいことは、それだけか?」

温かくも冷たくもない冷静な声だった。

怒っているとかいないとか、そういうのが一切読み取れなくて、泣いてムキになってる自分がバカバカしく思えてくるほどだ。

「おに、ぢゃんが……できる、せいで……わだしまで……っ求められて……っ。同じ、ように、したいのに……でぎないっ……わた、しは……ダメな子で……」

こんなことお兄ちゃんに言ったってどうにもならないのに。

それでも誰かが聞いていてくれるというだけで、不思議なことに本音が次々と口をついて出た。

「生まれて……こなきゃ、よかった……生きてる意味なんて……ないっ」

もはや、自分で言ってることの意味がわからない。

長年秘めてきた思いが一気に爆発してしまい、言いたいことがありすぎて、うまくまとまらない。

わたしはずっと、お兄ちゃんにコンプレックスを抱えて生きてきた。

「おか、あさんは……ひっく。お兄ちゃん、ばっかりで……」

嗚咽が止まらなくて、その場で深く息を吸った。そして落ち着かせようとしてみる。

「わたしの、ことなんて……っ。きら、いで……」

お兄ちゃんはゆっくりそんなわたしの背中をさすってくれた。

「さわらないでっ……て、言ってるでしょ……っ?」

皮肉なことにお兄ちゃんのその遠慮がちな手は、他のどんなことよりもわたしの心を落ち着かせてくれる。