もう嫌だ。なにもかも。
どうしてわたしってこうなんだろう。
もっとうまく立ち回る方法もあったかもしれないのに。
こんなふうにしか吐き出せない。
だけどもういいや。どうせわたしは死ぬんだから。
これ以上親を失望させようと、嫌われようと、どうでもいい……。
もう疲れた。ふたりの期待を背負って生きることに。お母さんは呆れてものも言えないのか、さっきからずっと黙り込んでいる。
今お母さんになにか言われたら……わたしは……。
とっさに振り返って、玄関のドアに手をかけた。
「待て、どこに行くんだ!?」
「……っ」
すごい剣幕に、一瞬肩がビクッと震えたけれど。もうわたしに構わないで……!無視するように、勢いよくドアを開ける。
「!?」
一歩踏み出そうとしたところで自然と足が止まった。
玄関先に、バツが悪そうな表情を浮かべるお兄ちゃんが立っていたからだ。
「聞くつもりはなかったんだけど、帰ってきたらたまたま声が聞こえたからさ……」
お兄ちゃんはそう言ったあと、視線をさまよわせて黙り込んだ。
「皇(こう)……」
お父さんの小さな声がかろうじて耳に届く。
わたしはその場から一歩も動けなくなって、辺りには気まずい沈黙が流れた。
予想外のことに涙はすっかり引っ込んでしまった。
「とりあえず、もう遅いしさ。琉羽も一旦家に入れよ? な?」
沈黙を破ったのはお兄ちゃんで、諭すようにわたしに言う。
なんでもできる完璧なお兄ちゃんは、こんな時の対処にも慣れているらしい。
なによ、すました顔しちゃってさ。
いつだって正しいおこないをして、優等生のお兄ちゃん。
この家ではわたしひとりだけが悪者で、仲間はずれ。
その証拠に、お兄ちゃんはどんなに遅く帰ってきても、お父さんやお母さんから咎められたりはしない。
それは高校生の時からずっとそうで、信用されているからだろう。



