「…………」
これまでのわたしはそう決めつけて逃げてきた。
このままで、いいのかな……。
菜月の時と同じようなモヤモヤが胸の中に広がっていく。
だけどもう、前みたいな勇気はない。
向き合うのが怖い……逃げたい。
だってきっと、わたしは嫌われてる。
「とにかく、中に入りなさい」
返事はせずに、トボトボとお父さんのあとを追って玄関に入った。
するとすぐにスリッパの音を立てながら、お母さんがやってくる。
お母さんはすぐにわたしに気づき、大きく目を見開いた。
「まったく、あなたって子はっ! 親にウソまでついてなにやってたの!」
お父さんを労うよりも先に、お母さんの鋭い声がわたしに向かって飛んでくる。
あまりのお母さんの剣幕にビクッと肩を震わすわたし。
「あなたがなにを考えてるのか、全然わからないわ。どうしてそんな子になっちゃったの……? わたしの育て方の、なにがまちがっていたというの……?」
『そんな子になっちゃった』
『まちがっていた』
お母さんの中ではすでにわたしはそんな子なんだ。
お母さんにとって、わたしは……いらない子。
そんなことは最初からわかってる。
でもどうして、いちいち傷つくわたしがいるの。
「なんでお兄ちゃんのようにできないのよ……っ」
爪が食い込むほど、拳を強く握る。
「ねぇ、聞いてるの? あなたがしっかりしてくれないから、お母さんも──」
「だ、だったら……!」
ダメだって頭ではわかってるのに、もう我慢ができなかった。
「わたしなんて生まなきゃよかったじゃん! わたしだって、こんな家に生まれてきたくなかった! もっと優しいお母さんがいる家に生まれたかったよ!」
ずっと押し殺してきた気持ちがすんなりと声になった。



