もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。

「ど、どこで?」

「父ちゃんが交通事故に遭ったっつー話、覚えてる?」
「あ、うん……五歳の時にって、言ってたね」
「そん時、病院で琉羽に会った」
「え?」

病院で?

「わたし、五歳の時の記憶が曖昧で……よく覚えてないんだよね」
「あー……そうなんだ? でも確かに、そん時の琉羽は頭に包帯巻いてたし、パジャマ姿だったから入院してたっぽい」
「入院……?」

まったく覚えてない。

普通なら断片的に覚えていそうなものだけど、まるでその時の記憶だけがスッポリ抜け落ちているような感覚。

まさかわたしの身にそんなことが起こったなんて、とてもじゃないけど信じられない。

だけど慎太郎がウソをついているようには見えなくて、多分きっと、真実なんだろう。

「五歳の俺は父ちゃんが治療を受けてる間、母ちゃんが病院に到着するのを一人で待ってた。俺、そん時……父ちゃんが死んじゃうんじゃないかって、怖くて震えが止まらなかったんだ」
「…………」
「そしたら……見知らぬ女の子が『大丈夫?』って声かけてきて……泣いてた俺の手をギュッと握って、隣で励まし続けてくれたんだ。単純だけど、それだけですっげー安心したっつーか。その手が温かくて、ホッとさせられたんだよな」

懐かしむように、どこか遠い目をしている慎太郎の口元には優しい微笑みが浮かんでいる。

「それが、わたし?」
「うん、まぁ……そういうこと。気づいたらいなくなってたけど、名前も知らない女の子のことがずっと忘れられなかったんだ。だから、小学生になって再会した時はビックリした」
「ウソ……」

わたしは小学生の時が初対面だと思っていた。

そんな出来事があったら、忘れるはずがないと思うんだけど。

「マジだって。俺、めちゃくちゃ嬉しかったんだからなっ」

そうは言うものの、慎太郎はなぜかムッとしている。怒っているというよりも、拗ねているように見えた。

「それなのに、琉羽は俺のことなんて全然覚えてないし」
「うっ……」
「すっげーショックだったんだぞ」
「ご、ごめん……」

でも、どうしてだろう。

まったく記憶にないのは。そんなことって、あるのかな。

「ま、いいけど。俺、そん時に誓ったんだ。今度は俺が琉羽のことを励ましてやる、助けてやる、守ってやるって」
「知らな、かった」

だって、そんなこと……ひとことも言ってなかったじゃん。

でも、だから、慎太郎はわたしが小野田くんに意地悪されてる時も、運動会で転んだ時も助けてくれたのかな。