ふと時間を確認しようと思って、カバンからスマホを出すとちょうど電話がかかってきているところだった。

画面に映し出されているのは『お母さん』という文字。ドキリと心臓が跳ねたのがわかった。

「ちょ、ちょっとごめんね、電話だ」

わたしはそっと立ち上がってその場を離れると、ひと気のない場所まで移動して電話に出た。

「やっと電話に出た! なにやってるの? 塾はとっくに終わってるでしょ? 早く帰ってらっしゃい」

怒ってはいないようだけど、呆れたような口調のお母さん。

「あ、えっと、今、塾の先生にわからないところを教わってて……すぐには帰れないのっ」

ウソをつくことに後ろめたい気持ちはある。

でも、こうでもしなきゃ今日ここへは来られなかった。

「だから……もう少し遅くなると思う」
「それは、本当なの?」
「えっ……?」
「本当に勉強してるのかって聞いてるの。塾の友達とどこかに寄り道してるんじゃないでしょうね?」
「……っ」

塾の友達ではないけれど、お母さんの言ってることは当たってる。

どうやらわたしは、まったく信用されていないらしい。

「ほ、本当に勉強してるよ? お母さんって、どうしていつもそうやってわたしのこと……っ」

その時、ヒュー、ドーンッという大きな轟音が辺りに響いた。

どうやら花火が始まったらしく、夜空に大きくて綺麗な花が咲く。

「なに、今の音は。それにあなた、外にいるんじゃないの? さっきから周りがザワザワしてるわよ。子どもの声も遠くから聞こえるし」

や、やばい。

「塾にいるなんて、ウソなんでしょ?」
「…………」

ど、どうしよう。

どう答えたらいいの。

こうなってしまった以上、わたしがなにを言ったってお母さんは納得しないだろう。

元から信用なんてされてないんだもん。

「はぁ……なに、やってるの。今すぐ帰って来なさい! 遊んでる場合じゃないでしょう?」

ため息の次に、今度はキツめの口調だった。

お母さんは、明らかにわたしがウソをついたことに気づいている。

「親にウソまでついて! まったく、お兄ちゃんはそんなことなかったのに……どうして琉羽はこうなのかしら……嫌だわ」

ブツブツと電話口でお母さんが嘆いている。

わたしは唇を噛み締めて、拳をキツく握った。

ここでもまた、お兄ちゃん……。

ほんともう、うんざりなんだけど。