「琉羽、帰ったの?」
下からお母さんの声がした。
「う、うん」
部屋から顔を出すと階段の下にお母さんがいて、呆れたような表情を浮かべている。
「帰ってるなら声くらいかけなさい。今晩みんなで外食に行くけど、あなたはどうする?」
「わ、わたしは行かない。適当になんか食べるよ」
「そう? だったら、ちゃんと勉強しておくのよ?」
「わかってる」
高校生になってから親と出かけるのが嫌で、いつもわたしはお留守番。
家で顔を合わせるだけでも疲れるのに、外でまで一緒にいたくない。
どうせお母さんにグチグチ言われるに決まってるんだもん。
それなら家でひとりでいるほうがいい。
でも勉強をする気にはなれなくて、ベッドに横たわってスマホをいじる。
今頃、菜月はどうしてるかな。
連絡してみようかなぁ。
うーん、でもなぁ。
考えているうちにだんだん眠たくなってきて、気がつくと眠りに落ちていた。
──チュンチュン
「んっ」
小鳥のさえずりで目が覚めた。
う、うわ、やっちゃった。
お風呂にも入らずに、あのまま寝てしまった。
ど、どうしよう。
スマホで時間を確認すると、現在朝の六時だった。
ベッドからそろりと起き上がって、忍び足で一階へと下りる。
音が鳴らないようにしていたつもりだけど、リビングに行くとすぐにお母さんに気づかれた。
「あ、お、おはよ」
眉間にシワを寄せてお母さんがわたしを見る。
その顔はなにか言いたそうに歪められていた。
「お風呂にも入らずに寝てたのね。その様子じゃ、勉強もしてないんでしょ?」
「え、あ、うっ……」
図星だからなにも言い返せない。
お母さんの責めるような目つきに、肩身が狭くなる思いだった。
「はぁ……まったく、あなたはお母さんを呆れさせるのがうまいわね」
「……っ」
そんなつもりはないのに、どうしてお母さんは……。
「もっとちゃんとしてくれなきゃ困るわ。お父さんだって、あなたのこと……」
「わ、わかってるよ!」
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい。
どうしてお母さんは、わたしを否定してばっかりなの。