もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。

夏休み直前の終業式の日。

優里はローファーの件でまだわたしを疑っている。

次の日、優里はクラスの女子たちに『ほんとありえない。犯人名乗り出ろ』と恨みつらみのこもった目でわたしのほうをチラチラ見ながら話していた。

聞き入れてもらえないのはわかっていたから、言い返したりはしなかった。

やってないんだから、堂々としていればいいんだ、堂々と。

「美鈴もずっと学校休んでるし、連絡しても返事がないんだよ。ありえないよね。なにしてるんだっつーの」

「美鈴ちゃん、まだ具合い悪いの?」

「さぁ? サボりなんじゃない? 元からそういうところあるし」

優里たちの会話が嫌でも耳に入ってくる。

四日前からずっと美鈴は学校を休み続けている。

そのせいで優里が不機嫌になり、それをクラスの女子たちがなだめている。

前までなら、わたしもこの輪の中にいて優里をなだめていたんだろうな。

でも今はちがう。

菜月がそばにいてくれる。

クラスの中で孤立していても、それだけでとても心強い。

放課後になり、菜月に寄り道して帰らないかと誘われた。

だけど塾があるので心苦しくも誘いを断ることに。

「じゃあ、夏休みはずっと夏期講習なの?」
「うん……そうなんだよね」
「そっかぁ。全然遊べない感じ?」

残念がる菜月を見て申し訳ない気持ちが込み上げる。

「ううん、そんなことないよ。行けそうな日があったら連絡するから、一緒に遊ぼう」
「やったー! 一度琉羽と本屋さん巡りをしてみたかったんだよね」

夏休みが待ちきれんといわんばかりの菜月の弾ける笑顔を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

学校に行かなくていいというだけで気が楽だけど、夏休みが楽しみかと聞かれたら返答に困ってしまう。

「あ、あとはねぇ、カフェ巡りとかもしてみたい。お気に入りの小説のことで一生語れる気がする」
「え、なにそれ、楽しそう」
だけど菜月と過ごす夏休みは楽しそうだな。想像するだけでワクワクしてくる。

「じゃあ、わたしは自転車だから。バイバイ」
「うん、連絡待ってるね。バイバイ」

菜月に手を振り駐輪場へ向かう。

夏休み前ということもあって、いつもの倍ぐらいにカバンがずっしり重い。

カゴにカバンを乗せると、重みでハンドルが傾いた。

「わっ」

倒れそうになるのをとっさに手で支える。

「琉羽!」
「え?」

──ガシャン
──ガタガタガタッ

突然呼ばれたことに気を取られ、自転車が横へと倒れた。倒れた自転車が隣の自転車をなぎ倒してしまい、それはドミノ倒しのように三台ほど続いた。

あっちゃー、やってしまった。

「なにやってんだよ、ったく」

バスケ部のユニフォームを着た慎太郎がそばに走り寄ってくる。そして呆れたように笑った。

「し、慎太郎が急に呼ぶからでしょ」
「あー、まぁ、それもあるな。悪い」

そう言いながら自転車を起こしてくれる。

ユニフォームから出ている腕はほどよく筋肉がついていて、自転車を起こす時に力が入ってたくましく膨らむ。

なぜかドキドキしながらそれを見ていると、下から見上げる形で慎太郎が顔を上げた。

「いやいや、おまえも手伝えよ」

子どもみたいな無邪気な笑顔。

よっぽど急いで来たのか、慎太郎の額には汗が浮かんでいる。ブロンドの髪が生温い風になびいて、横に揺れた。

「おーい、なにボーッとしてんだ?」
「あ、ご、ごめん」

まさか、ユニフォーム姿の慎太郎に見惚れてたとか言えるわけない。

慌てて自転車を起こそうとするけど、隣の自転車が覆いかぶさるように邪魔をして、てこずってしまう。

ハンドルの部分がタイヤ部分に挟まってしまっているので一苦労だ。

「ぬ、抜けない……」
「あーもう。なにやってんだ。余計絡まってる」
「だ、だって、重いんだもん」

カラカラと後輪が空回りする。

ハンドルが余計に奥へ入ってしまった。

すると慎太郎はわたしの前にきてしゃがみ込み、やれやれと言いたげな表情でわたしが苦戦している自転車に手を伸ばす。

その時、フワッと頬に慎太郎の髪が当たった。わ、近い。