優里が力任せに靴箱のフタを殴ったからだ。

思わず背筋がピンと伸び、ドキリとする。

その場にいクラスの女子たちも優里のピリピリした雰囲気にビックリして、顔をこわばらせた。

「こっえー」
「俺、楠さんのこといいなって思ってたのに性格悪そうだよな」
「見た目はかわいいけど、あれはなぁ……引くわ」

コソコソと男子が談笑している。

優里はそんな男子たちをひと睨みする。

「やっべ」
「こっわ」

男子たちは逃げるようにこの場を去っていく。

それを見計らうと、優里は再びわたしに向き直った。

「ほんっと、ムカつくんだけどっ」

興奮して逆上している優里に、わたしの話が通じないのは一目瞭然。

これ以上否定しても、余計に怒らせるだけだ。

でも、やってないものはやってない。

「こんな姑息なマネして仕返しするなんて、最低だと思わないの? コソコソこんなことしないで、堂々と立ち向かってこいよ」
「だ、だからわたしじゃないってば」
「ウソつくなっつってんだよ!」

優里が右手を振り上げた。

目を見開き、完全にわたしがやったと疑っているような鋭い目つき。

振り上げられた手が、こっちに向かって飛んでくる。

叩かれる。そう覚悟した瞬間。

「ストップ」

後ろから誰かが優里の手を掴んで動きを止めた。

そこには浩介くんが立っていて、鋭い目つきで優里のことを睨んでいる。

浩介くんのことはあまりよく知らないけど、お昼休みの時はニコニコしてたから、こんな表情をすることに驚いた。