もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。


たかが小説でしょと言われるかもしれないけど、小説の中にも世界が存在していて、読んでるうちに自分もその中の住人になったような気にさせられる。

だからこそ登場人物には幸せになってほしいのだ。

だけど、世の中はそんなにうまくいかない。

それは小説の中の世界でも同じだった。

交通事故というキーワードで思い出したけど、わたしのタイムリミットも迫ってきてる。

そうは言ってもまだ二ヶ月近く余裕はあるけれど、実際に今こうしてここにいると、この先自分が死んでしまうだなんて信じられない。

「お待たせー、あー、腹減ったぁ」

そうこうしているうちに浩介くんと慎太郎がきて席に着いた。

慎太郎はカツ丼で、浩介くんはこの暑いのにきつねうどんセット。

どう見ても汗をかくにちがいないけれど、浩介くんは無類のうどん好きなんだとか。

「二日に一回食わねーと持たない。うどんが俺を呼んでるんだ」
「あはは、なにそれ」

菜月がそんな浩介くんに苦笑い。

「あ、その笑顔かわいい。もう一回笑ってよ」
「や、やだよ」

わたしや優里といた時の菜月は、なにを言われてもヘラヘラ笑っていた。

でも今は嫌なことは嫌だとはっきり伝えている。

「北沢くんって、賢いのにバカだよね」
「なっちゃーん、バカは余計だよ、バカは」

こっちの菜月のほうが自然体のように思えて好感が持てる。

教室では無理して合わせてたんだよね。

わたしと同じように気を張っていたのかな。

優里や美鈴がいない空間はとても和やかで落ち着く。

学校の中でこんなに落ち着いていられるなんて、今まででは考えられなくて。

優里や美鈴のことばかりを考えていたわたしの世界がどれだけ狭かったのかを、改めて思い知った。