もしも明日があるのなら、君に好きだと伝えたかった。

「あ、えっと。菜月はどうする?」

お弁当箱を抱えているということは、菜月はどこかで食べるつもりだったのかな。

いつもお昼休みになると教室を出て行ってたけど、もしかするとわたしみたいに行く宛に困ったこともあったのかもしれない。

菜月の立場になってみて初めて気持ちがわかった。ひとりは心細くて不安で寂しい。

「せっかくだし、なっちゃんも一緒に行こうよ」

浩介くんがニコッとしながら菜月に言う。

物腰が柔らかくて優しい口調。

でも距離が近くて、どことなくチャラい印象を受ける。なんというか、胡散臭い。

いや、慎太郎の友達だし、いい人ではあるんだろうけれど。

さり気なく下から顔を覗き込んで笑っているところなんか、女子に慣れてるように見えて仕方ない。

「琉羽が行くなら、行こうかな」

菜月は浩介くんから距離を取るように後ずさる。そして、わたしの顔をチラッと見た。

「うん、いいよ」
「よっしゃ、じゃあ決まりな。行こう、今すぐ行こう」

浩介くんが菜月の手を掴んで強引に引っ張った。

「き、北沢くん! は、離して」
「それは無理なお願いだな。っていうか、焦ってるなっちゃんも超かわいいね」

あれよあれよという間に遠くなって行くふたりの姿。

「な、なにあれ……っていうか、大丈夫なの?」

あの人。

「浩介の奴、近藤のことしか見えてないんだよ。俺ら三人、中学の時に塾が一緒でさ。中二の時から、浩介はあんな感じ」

慎太郎はのんきに苦笑い。

どうやら強引な浩介くんの姿は見慣れているらしい。

中二の時からって、そんなに前から慎太郎と菜月は知り合いだったんだ。

知らなかった。なぜなのかはわからないけど、なんとなくショックだ。

「まぁチャラそうに見えるけど、中身は案外しっかりしてるし、いざって時には頼りになる奴だから。心配すんなって。それより、近藤と仲直りできてよかったな」
「あり、がとう」

もう一度菜月と向き合おうと思えたのは慎太郎のおかげだよ。

いろいろ頑張ろうって思えたのも、菜月に謝りたいって思ったのも全部慎太郎がいてくれたから。

「あの日、わたしのカバンにメモを入れたのは慎太郎だよね? シンタローのツブヤイター見たよ」

「あ、マジ? 見たんだ?」

慎太郎はかなりビックリしたように目を見開いた。

自分から存在を知らせてきたのに、わたしが見たことに目を白黒させて驚きを隠せない様子。

「そりゃ、見るでしょ。あんなメモが入ってたら気になるもん」
「はは、だよなぁ」

見てもよかったんだよね?

そんなふうに言われると不安になる。

見たとしても、黙っておくべきだった?

「恥ずいことばっかつぶやいた気がするから、どう反応したらいいかわかんねー……」
「えっ? わたしは嬉しかったけど?」
「は?」

慎太郎はさらに大きく目を見開いた。

「わたし、慎太郎に嫌われてるんだって……ずっと、そう思ってた。だから、あのつぶやき見てビックリしたんだよね」
「あー……まぁ、あれは」

「慎太郎もわたしの会話を聞いてたんだよね?『友達だと思ったことは一度もない』って言ったのは、わたしなんかがキラキラまぶしい慎太郎の隣にいちゃいけないと思ってたからだよ。わたしなんかが、慎太郎の友達だなんておこがましいにも程があるって。だって慎太郎は、わたしにとって雲の上の存在だったから」

「ぷっ、はははっ!」

慎太郎は突然お腹を抱えて笑い出した。

「なんだよ、雲の上の存在って。ひーっ、腹いてぇ。俺、神様かなにかなわけ? はは、俺が? ありえねーって」

目に涙まで浮かべて、ケラケラ笑っている。

「そんなに笑うことないでしょ。失礼だなっ」
「わりーわりー、琉羽があまりにもおかしなこと言うからさ」
「もう、なんなのよ」

慎太郎の腕に軽くグーパンチをお見舞いする。

思ったことを言っただけじゃん。

だって慎太郎は実際にすごくて、どんなことにも前向きで明るくて。

そんな慎太郎のことを尊敬してた。

「嫌われてると思ってたのは、俺の方だっつーの」

もう慎太郎は笑ってはいなくて、今度は唇をムッと尖らせている。

その横顔は子どもみたいで、なんだかかわいい。