そんな、貴重なシーンなのに、プリントを配り終え、教卓に立つ先生を、どうしても、見ることが出来なかった。


嬉しいのに……。


それよりも、恥ずかしい気持ちと、ドキドキの苦しさが勝っていた。


「じゃあ、68ページだけ……高橋、読んでくれる?」

高橋さんが立ち、教科書を読んでいるのを、右から左へと聞き流し、風に揺れる花たちを見ていた。






ねぇ……チューリップさん



こんな私は、おかしいかな?



情けないのかな?



先生のこと、見られないんだ。



笑っちゃうよね。





ね…………そうでしょう?







高橋さんの読む、呪文のような歴史と、パタン、パタンと先生のスリッパの音だけが、教室に響いていた。

その時、机に影ができ、カサッと紙が置かれた。


ふと見上げると、先生はそのまま通り過ぎた。


「ありがとう。じゃ、次は町田。続きから、最後まで読んで」



私は、こっそり紙を開いた。





―――――――



チューリップに見とれてないで

俺が授業してるんだから

俺に見とれなさい


―――――――





ほんとに?



先生に見とれていいの?







冗談きついよ、先生



先生が好きすぎて

恥ずかしくて

突然の歴史の授業で

顔なんて見られないのに……。