なにも言えずに、先生の隣でチューリップを見る私に、先生はアハハと笑った。


「俺、だせぇな。キモいか?」


そんなことないよ、先生……。


チューリップを眺める先生を見て、先生の優しい瞳に気付けたよ。


「そんなことないですよ。私も、春が1番好きだし。別れと出会いの季節だって言われるけど、風が綺麗で……。別れの寂し涙も、出会いの嬉し涙も、春の風が、優しく拭ってくれるような、そんな気がし……あ……」


私は、しまった、と口を押さえた。


「すみません……私の方がキモいですね」


気まずさに笑っても、先生は、無表情のまま私をまっすぐ見ていた。





ねぇ、笑い飛ばしてよ……。


傷つくじゃん……。




「初めてだよ……」


先生は、両手をポケットに入れたまま視線を逸らし、笑った。


「……はい?」


「風が綺麗だなんて言う人、初めて。色も形もない風や空気は、誰も気にしない。だけど、それを綺麗だなんて感じる君は、すごく心が綺麗だね」


先生は、目を細めて優しく笑った。


その優しい笑顔は、私と、チューリップだけの秘密……。


今の笑顔、内緒だよ。


先生の笑顔が輝いて見えて、花びらが先生の後ろでヒラヒラと風に舞った。


春の風は、恋心も、暖かく包むんだね。


誰かを想う気持ちが、こんなに……こんなに暖かくて、苦しくて……甘酸っぱいことに気付けた。