「ごめん。あたしトイレ行ってくる」


沙織がトイレに行くと、先生は、中履きスリッパのまま、昇降口の外に出た。


「ふあ~あ。しかし春は眠いよなぁ~。あ、夏も眠いか。でも、秋も冬も寒くて起きられないか」


一人で言いながら笑う先生は、とっても可愛かった。

「先生は、どの季節が好きですか?」


会話に詰まった、お見合いみたいなベタな質問をしてしまった。


「んー。春は空気が好きだし、夏はサッカーで汗をかくのが好きだし、秋は食べ物がうまいから好きだし、冬は氷柱や雪が綺麗で好きだし……」


私のくだらない質問に、先生は「うーん」と真剣に悩んでくれた。





「俺は、春かな……」


「春、ですか……」


「チューリップとか、好きだし」


先生は、両手をポケットに入れ私に振り返り、微笑んだ。


その時に見えた、右の八重歯が、とてもかっこよく思えた。








「なんか……可愛いんだよな」


そう呟き、花壇のチューリップを見つめる先生の横顔は、切ないような、愛おしいものを見るような、複雑な表情だった……。



その瞳には、何が映っていますか?


先生の向こうには、誰が居ますか?