先生は、目を細めて、優しく微笑んだ。


「お前が好きになった奴ならきっと、いろんな良さがあるんだろ?風が綺麗だなんて言うくらいだから男を見た目だけで決めないと思う。優しかったり、その人の持つ空気が良かったり……いい奴なんじゃね?」






その通りだよ、先生……。

そんな先生が好きなんだよ……。

きっと、こうして教師と生徒じゃなくて

同級生だったり、同僚だったとしても

私は、先生を好きでいたよ。





この広い世界で、この土地、この時代に出会ったこと、すごい奇跡なんだよね。



先生と出会えて、好きになれたこと



幸せに思うんだ。




綺麗ごとかもしれないけれど……もう少しだけ、この気持ち、大切に持っていてもいいかな……?



本当は、諦めようと思っていた。



『好き』の二文字も言えない。


デートも出来ない。


一緒にお弁当を食べたり、手を繋いで登下校も出来ない。



それに何より…………



貴方は



先生だから……。





「自分の事は、よく分かってんじゃん。ヘタレ鈍感……」


沙織が呟いた言葉は、先生には届かなかった。


「は?なに?」


「なんでもございませーん」


沙織とこっそり笑うと、先生は片眉を上げた。



「まぁ、いいけどー。今日の数学は、テストするから覚悟しておけよ」


ワハハと笑いながら、先生は、職員室に戻っていった。





その広い背中に

心の中で

『好き』を送る。