『おはようございます』
今日から私の仕事は始まる…
『おはようございます』
優しく微笑みながら兼也さんは返してくる。
『何をすれば宜しいでしょうか?』
と、私はこのような仕事が初めてなので、聞いてみる。
『じゃあ、朝御飯と弁当作って下さい。
冷蔵庫にそれなりの食材は有ります。
朝御飯は、トーストや、ご飯一膳だけで大丈夫です。
ご飯の場合は、食器棚の中から、適当にお椀を取って下さい。
食パンは、冷蔵庫の隣の棚の上に置いてます。
ご飯はお弁当用に炊いてあるので大丈夫です。
弁当箱は、同じく、冷蔵庫の隣の棚の一番上の引き出しの中の黒い一段の物を今回は使って下さい。
出勤は今日は遅いので、10時です。
家を出るのは、9時半です。
すみませんが、それに間に合うようにお願いします』
と、細かく丁寧に説明してくれる。
質問する隙がない。
『分かりました』
なので、私は頷いた。
そして、作業に取り掛かる。
(昨日も今度はピザトースト作ってもらったし…
ご飯にしよう…)
と、考え、私はご飯を一膳よそう。
(でも、栄養足りないから…)
と、私は愛用している栄養満点のふりかけを少しだけかける。
(言われてないけど…喉乾くだろうし、コーヒーも)
と、食器棚の中に置いてあったコップにコーヒーを入れる。
(コーヒー、昨日も飲んでたもんな…
何か、好きそう)
何となくそんな事を考えながら、私は用意した朝御飯をリビングへと持っていく。
『どうぞ…』
口に合うか、嫌じゃないか、立ち振舞いとかはおかしくないか。
色々心配だが、その不安を消し飛ぶような一言が聞こえた。
『凄い!凄いです!
こんなにも気を使っている朝御飯は初めてです!
ありがとうございます!』
その笑顔は、お世辞ではなく本物だと教えてくれた。
そして、同時に何かが頭を掠める。

『ははっ!馬鹿かよ!』

そう笑うのは、忘れられない初恋の人。

なぜか、その笑顔と今の笑顔が重なる。
(ドキッ…て、なんだこれは)
久しぶりに少しだけ早く鳴った音。
それに気付かずに兼也さんが朝御飯を食べてくれた事に、良かったと私は思った。
(偶然…だよね?)
少しだけ違和感を感じたのはまだ秘密。