いままで一度だって自分の気持ちをはっきり伝えたことはないけれど、杏にだけは違うんだ。


誰にも渡したくない。絶対に。




「───好きだ」



静かに口にした言葉は、自分でも驚くくらい響いて聞こえた。


目の前に立つ愛おしくてたまらない彼女は、目を見開いてみるみる頬が赤く染まっていく。


「俺の好きな人は、杏だから」


お前が、杏が、俺の愛おしい人。


俺のこの気持ちを、もう勘違いされたくない。杏にだけは、ちゃんと知っていてほしい。


だから、もう一度。


「杏が、好きだ」


紡いだ言葉と同時に、俺は彼女の頬にそっと触れた。