すると突然距離を詰められて、抵抗する間もなく彼女は俺の腕に絡みついてきた。 慣れない感覚と鼻をかすめる香水の匂いに、一気に嫌悪感が押し寄せる。 ずっとずっと、男女関係なく、誰にでも分け隔てなく接してきた。 こういう風に女子に話しかけられても、のらりくらり受け流してきた。 ……けど、いまはもう違う。 俺は、杏だけでいい。 「離せよ」 「……えっ?」 喉の、ずっと奥。自分でも驚くくらい低い声が出たことに気づいたのは、目の前の彼女が怯えた様な顔を見せてからだった。