「……ばか」 「可愛いね、杏ちゃん」 とっさにその手を掴んでやろうと思ったのに、ヒョイッとかわされて、私の手だけが宙を舞う。 もうっ、他の人だっているのに……! ちょうど私たちの周りに人がいないのをいいことに、拓海は小さな声でもう一度「可愛い」とささやいた。 な、なんなの……っ。 そんなにからかって、やっぱり拓海は性悪だ。 私が、その言葉のひとつひとつにどれだけドキドキしてるかなんて、きっと拓海にはわからない。 好きな人にそんなこと言われて、ドキドキしないほうがおかしいというのに。