「杏」 「ん?」 すっかり上機嫌になった彼女の耳に、口を近づけた。 ふわっと鼻をかすめたシャンプーの香りにドキッとしたけど、それ以上にいまからドキドキさせてやる。 「今日の杏、すっげー綺麗」 いつかにも使ったセリフ。 でもそのときといまとじゃ、まるで意味が違う。 ニッと笑って見せると、予想どおり杏の頬はみるみる赤く染まっていった。 「……っ、もう!」 繋いでいる手とは反対の左手で顔を隠しているけれど、あいにく耳まで真っ赤だから隠せてない。