正直、杏以外の女なんて興味ない。
だいたい、名前はいまだに思い出せないし。
「ちょ、ちょっと……っ!拓海!」
「あぁ、悪りぃ」
カラカラとつまずきそうな下駄の音に、ハッとした。
けれど、後ろで少し息が上がった様子の杏を見て、思わず笑ってしまう。
「ははっ。杏お前、相変わらず体力なさすぎ」
「なっ……!こ、これでもちょっとずつ頑張ってるんだからね!」
俺の言葉でムキになった杏に、またさらにふはっと笑う。
なに、体力づくりでもしてるの?俺が前にバカにしたから?
「……可愛いなぁ、杏ちゃんは」
何も考えず、その言葉が出た。
こんな些細な一瞬だけで、さっきまでの苛立ちなんて嘘のように吹っ飛ぶから不思議。



