「まぁ、手間がはぶけたってことで」
「……うん、なに言ってるのかわかんない」
首をかしげる私に、拓海は企んだ表情をしていた。
ついさっきまでの出来事だなんてまるでなかったかのようなその切り替えの早さに、もはや尊敬さえ覚える。
そしてその直後、拓海は右手のメガネをブレザーの胸ポケットにしまいこんでしまった。
「あっ、ちょっと!」
「はーい、ダメでーす」
反射的に伸ばした手は、いとも簡単に捕まえられてしまう。
拓海に掴まれたのは、手首。
けれどその手はそのままスルリと滑って、私の手のひらを握った。
「っ、え、なに……?」
「ははっ、予想どおりの反応」
急なことで動揺した私を、拓海は楽しそうに笑う。



