「じゃあ10個ほど。」

「あいよ」


ばーちゃんから受け取ったテオドールをあたしはチンピラに渡した。


「なっ…」


あたしの予想外の行動に動揺の色を隠せないでいるチンピラ。


「商品取り替えたんだからそれでいいだろ?
 まさか個数が足りないとか言わないよなぁ~?」


テオドールは保存が難しい挙句に個人的な感想だがお世辞にも美味とは言えない。
よっぽどの物好きか大人数で食べるとかでない限り普通は10個もいっぺんに買っていく奴など滅多にいない。

…その滅多だったら話は別だが。


「オレはこんなクソババアが売ってるテオドールなんて食う気になれねぇんだ!!
 だから…」


「金返せ?勿体ないねぇ…
 これ、15チャロンでも安いくらい滅多に取れない種類のテオドールなのに。
 こんな風変りな果物買い求めるくらいだからなぁ…
 …まさか知らなかったとか言わないよな?」


「え”?」


これだから目利きの出来ないヤツわ…。


「う…うるせぇ!!いいから金を渡せ!!
 渡さねぇってんなら力づくで貰ってくぜ!!」


というのと同時に腰にさしていた長刀を引き抜きあたしに真っすぐ向かってくるチンピラ。


まったくもって引き際を知らないヤツである。
穏便に済まそうと逃げる機会作ってやったのにアホなやつ。



人垣から悲鳴が上がる。

いや…そんな…
そこまで叫ぶほど大した相手じゃないんだけど…。


直進してくるヤツには避けてかわして足を引っかけてこかしてやるに限る。


「うわ”ッ!!」


これ以上ないくらい顔面から豪快に見事に突っ伏すチンピラ。
うわダサッ!…あ、ピクピク痙攣してる。


「こっ…このくそガキッ!!ぶっ殺してやるっ!!」


やっぱりお父さんみたいに中々上手くいかないぁ…



あたしは仕方なく腰の短剣に手をかけた。