あたしが両親の元から逃亡した直後、その息子は訪ねてきた。

大口叩いて飛び出して来たものの、やっぱりちょっと気になっちゃうのが乙女心。
顔ぐらい拝んでから逃げても遅くはない。

と思って納屋に隠れてみたものの・・・隠れた場所が悪かった。


肝心の顔が拝めない。
く・・・くそ~っ・・・あたしのバカ!!

ここから見えるのはヤツが乗ってきたであろう期待を裏切らないよーな白い馬のケツとその馬の手綱を握ってる青年の色白の手だけ。

「と、言うわけで逃げられちゃいましたー☆」

おちゃめに語る父の声が聞こえてきた。・・・おいおい・・・。

「・・・両親の命令とはいえ、折角ここまで来たのにどういうつもりですか」

あまりの軽いセリフと態度の父に、ヤツもといフィルは呆れたように言い放った。

「そう言われてもなぁ・・・
 ほら、女の子って難しいし?」

構わず父は至極軽~くハズれた事をほざく。
父よ、空気読め空気。

フィルは馬の手綱を握り締めたまま大きくため息をついた。

「・・・大まかではありますが、あなたの事は父から伺っております。神話の賢者を務めた英雄と言うからどんな人物かと期待していましたが・・・正直がっかりしましたよ。ご自分の娘も捕まえておけないような人だとはね」

皮肉たっぷりに吐き捨てるフィル。

因みに「神話の賢者」というのは、あたしが生まれる以前に起こった神話戦争の時のなんからしい。
とりあえず何かの英雄だったらしいのだが、そこらへんはあたしもよく知らない。

「・・・それはそれは、ご期待に添えなくてすまなかったね」

・・・と言う父の顔は見えないが・・・空気が怖い。

「・・・まあ、ともあれ見合いは中止ですね。その旨両親には私から報告しておきます」

ため息混じりに言い放つや否や馬の手綱を引っ張り寄せるフィル。
よしよし、いいぞ~!そのまま帰れっ!

「まあまあ、そんな事言わずにお待ちなさい♪」

手綱を引く手がピタリと止まる。
だぁぁッ!!もう少しで破談だったのにっっ!!