「うん。卵料理が好きなんだけど、オムライスは特に好きで……でも自分で作ってもなかなか上手くできないんだ」
「たしかに。オムライスってきれいに作るの難しいよね」

うんうんと偉そうにうなずいているが、私はもちろん食べる専門だ。

「そうなんだ。フライパンで巻くやつも難しいんだけれど……。
ほら、お皿にご飯を先に盛り付けて、その上にオムレツを乗せるやつあるだろう。ナイフでオムレツを切る卵がふわーって広がる」
「タンポポオムライスだー!」

チキンライスの上で広がるふわとろ卵。
その光景を思い浮かべ、うっとりとしてしまう。

「あれ、タンポポオムライスっていうの?」
「私はお父さんにそう教わったよー。『タンポポ』って映画に出てきたからなんだって」
「へえ……」
「でもさ、見た目もちょっとタンポポみたいだよね。黄色くてふわふわしていて、ああー食べたくなっちゃったなー」
「ふふっ、日下部さん食べてないのに美味しそうな顔してる」
「そ、そう?」
「うん。……いいな。そんな顔ができて」
「え?」
「……それじゃあ、日下部さん。僕もう行かなきゃ。またね」
「あ、うん。引き止めてごめんねー」

広瀬くんは柔らかく微笑み首を振ると、そのまま背を向け走っていった。
もしかして急いでいるのかな。
引き止めて悪かったなあ。

私は……
なんとなくその姿をずっと見ていた。

彼が完全に見えなくなるまで。