広瀬くんは、いっぱい食べる私が好き

お弁当をほとんど食べ終わり、最後に残った卵焼きを口に放り込む。

「……あれ」

甘くない。

最初に頬張った、お砂糖の入った甘い卵焼きの味を想像していたのだが、それとは違う出汁の風味が広がった。

これ。甘さのないだし巻き卵だ。

「広瀬くん、卵焼き二種類いれたの?」

尋ねると、広瀬くんは照れたように苦笑しながらうなずいた。

「……日下部さんが、どっちの味が好みなのかわからなかったから」

「それでも、わざわざ二回焼くのは大変だったんじゃ……」

「そんなことないよ。せっかくだから………少しでも好きなものを食べてほしくて」

「広瀬くん……」

なんだろう。

これは広瀬くんの真面目さ?

優しさ?

きっときっと、どちらにしても彼の長所なはずなのに。

少し……かなしい。

「私……私は、どっちも好きだよ。卵焼き。甘いのもしょっぱいのも」