あかいろのしずく

夕方になり俺はいよいよ焦り始めた。どこか抜けている藤谷が、ここまでガードが固い日があっただろうか。タイミングが悪すぎる。

それに点滴の効果もあって、症状は回復してきていた。このままだとあの建物に戻されるのも時間の問題だ。


日が沈み夕食を済ませ、時計の針が九十度回り、外は真っ暗闇と吹雪に包まれて、窓から冷たい空気が雪と共に流れ込んできて、寒さに布団を被って目を閉じて、点滴は、外される。



今日は無理かもしれない。悔しさはあったが、同時に諦めも感じて、そう思い始めていた。



日が変わる二時間前ほど前の夜。藤谷に声をかけられるまでは。






「吾川くん、今朝からずっと、これを探しているね」




藤谷は「ごちそうさまでした」とちょうど手を合わせた俺の前で、自分のラベンダー色の携帯を見せる。

その瞬間、俺は弾かれるようにして顔を上げた。