西平のいたあの建物にいた時は、チャンスなんてチラチラ視界に映るだけで掴めなかった。俺はとてもそれがもどかしかった。


南京錠だらけの玄関のドア。強化ガラスの小さすぎる窓。どこに行っても何を見ても、逃げられるような出口なんてどこにもなかった。




けれどここに来たらどうだろう。

出口なんてそこら中にある。窓なんて割れているしドアは自動で開く。携帯だって今ついさっき手に入れた。もうあと何が必要だ?


必要なものも環境も何もかもそろっているし、そもそもこんな簡単に何もかも上手くいかなかった。



それはもう、反対に「どうして」と尋ねたくなるほど、俺に甘すぎる現実だった。