点滴の針を無理やり抜いて、藤谷の横を抜ける。



スタッフルームに入ると後ろから「吾川くん」と混乱したような藤谷の声がしたが、構わず奪うようにテーブルから、薄い紫色の携帯を取る。


自分は宝石に目がくらんだ泥棒のようだった。
こうやって隙をついて他人の物を奪っても、罪悪感なんて感じなかった。


倒れた点滴スタンドを立てかけると、藤谷は俺の方を見た。
出口もない。もう俺には、逃げ場はないのだと思った。

けれど、構わなかった。




「今から警察に連絡する。西平のことも話すし、このことも全部話す」





俺がそう言うと、藤谷は驚いた。
いつもにこにこしていた表情が、崩れた瞬間だった。


少しの間だったけれど世話になった。薬も貰った、ご飯も恐らく作ってくれていた。それを思うと悪いが、こんなチャンスもう二度とないと言っていい。