藤谷はタコ糸をまたいでこちらに来た。ぱたりぱたりとスリッパの裏が床を叩く。
まるでこれぐらいの簡単な仕掛けに引っかかるなよと、笑われているようだった。


藤谷の白く細い腕が伸びてくる。
俺は息を吸って目を閉じる。


次に藤谷が口にしたのは、意外な言葉だった。




「大丈夫?」



藤谷の手は、俺に触れる一歩手前で止まった。目を開いてそれを確認した後、俺は彼女の言葉をもう一度頭の中で繰り返す。



大丈夫? どういうことだ?





「針、痛い? 顔真っ青」




ドク、ドクと喉の奥で心臓が鼓動を吐き出す。
左腕のことなんかもうどうでも良かった。痛みも忘れていた。


藤谷は心配そうに俺を見ていた。

けれど俺は、それが演技なんだとしか思えなかった。