曲がったハンガーにジャンパーをかけてから、俺はベッドに座っていた。
「吾川(あがわ)くん」
何だかんだで最近はそう呼ばれていなかったから、苗字で呼ばれて少し驚いた。
ここまでくると仕組まれているんじゃないかと疑うけれど、俺の個室はドアが壊れていた。プライベートも無ければ部屋に入る時にノックもされない。
突然彼女現れたように思うのは当然だったけれど、俺は何か、引っかかるものを感じた。
抗うつ剤を点滴で打つと、藤谷は「よし」と言って俺に背を向けた。俺は気になって、西平がまだここにいるかどうか聞いた。
「いないよ。西平くんは、帰ったよ」
藤谷はそれだけ言ってふふ、と笑い、部屋を出て行った。



