荷物は何も持たされていない。さて、本当に俺はここで治療されて終わるんだろうか?
車のエンジンを切って西平がドアを開ける。俺も開けようとした。
「あ」
西平が何か思いついたように動きを止めたのは、ちょうど俺が取っ手に手をかけた時。それからどういうわけか、「アズマくんは待っていてください」と指示して、自分だけ女性の方に向かっていった。
もうここまで来れば監視の必要もないと思ったのだろうか。その時もだったけれど、西平はたまに、どこか大事なところを見落とすことがあった。
「どうして電話番号なんか必要なんですか?」
西平が出て行ってすぐ、ショウトが聞いてきた。
俺には正直、番号を貰ったのはいいが自信はなかった。
今までならなんとかなるとは思っていたが、心身ともに疲労し自信が持てなくなっていた。
だからもうてっきりその事には触れないつもりでいた。いつかまたチャンスがやってくる、「その時」まで。



