その時、リビングから固定電話の着信音が鳴った。 母が「失礼します」と言うと、慌ててそちらにパタパタと走っていく。 二人きりになった玄関。先生がそこで振り返り、不安そうに見つめる私と目が合って。 黒い髪と眼鏡の奥で、揺れる瞳が覗く。 「君たちに、罪はないのに」 先生は小さな声でそう呟く。それから私の頭に手を乗せて、ぽんぽんと撫でた。 とくん、とくんと心臓が温かい音を鳴らす。