きみの理想の相手

「…大したことしてないから。ほら、廉、行くぞ」

恵くんは金井さん達がいるのに、私に好きだと伝えてきた。
本当は私に伝えたいこと沢山あったのに、私が伝えさせなかった。

私は口を噛みしめてから、恵くんの目を見れなかった。
それを察した恵くんは私に言う。

「暦ちゃん。俺は暦ちゃんが好き。でも、今は誰かを想っているのは分かっている。それでも、今までの関係で話してくれるかな」

切ない表情をして、恵さんは私の頭を恵くんの大きい手が包み込む。

「…ありがとう。うん。これからも仲よくしよう」

私は恵くんの目を見て、返事をした。
平気そうにしていた恵くんは、本当は我慢していたんだ。
だけど、私を想って、優しい言葉で返してくれる。

恵くんの優しさに涙が出そうになった。

恵くんは、隣の椅子に置いてあった鞄を手に取っていた。

「いや、話するんじゃ」

金井さんは恵くんを引き止めるかのように言うと、恵くんは悲しそうな表情を浮かべていた。

「暦ちゃん。またね」

恵くんは手をあげて、去っていた。
廉さんは恵くんに行くよと言われて、仕方なく帰っていた。

「…はい」

私はただ返事をするだけしか出来なかった。
恵くんの気持ちを分かっていたのに。

恵くんは私より大人で優しくて、アドバイスは的確。

だけど、金井さんのことが好きなんだ、この人がどうしても。

「…理実さん」

金井さんは私の近くに来て、名前を呼んだ。

「…金井さん。あのー」

私は下に俯きながら、声を発する。

「はい」

ただ私は返事をして、金井さんの言葉を待っていた。

「…恵さんとは知り合いだったんですか?」

金井さんは自分のカバンを強く握りしめてから、私に聞いてきた。

「知り合いというか。高校の時の先輩で…」

私は正直に話をした。
無理に嘘をついても、金井さんに伝わる。

「元カレ?」

金井さんは少し黒目を大きく開けて、私に元カレ?と聞いてきた。

「な、なんで」

私は驚いて、金井さんと目を合わせる。