「…それはそうだけど。別に好きじゃなかったから」

尊くんは全員の女子から敵意が向けられる程の発言をしたので、私は尊くんの発言に引いた。

「はあ?最低」

私は水を片手に持ち、尊くんの顔を見て声を発した。

「いや、それは暦に気引いてほしくて、やってただけだから」

 右手で口にあててから尊くんは黙ったあと、ぼそっと私に言った。

「え?えー!」

私は一瞬身体を静止した後、大きい声を出した。
店内ではお客様が数人いたので、私たちの方を見ていた。

私はすいませんとペコっと後ろを向いて頭を下げてから、尊くんに向き直す。

「いきなり驚くことないだろ」

尊くんは呆れ顔で私を見つめる。
いや、呆れるよ。好きじゃないのに付き合うとか。

普通、驚くよ。普通の人はそんなことしない。

「驚くわ。そっか」

自分の胸にあててから、目を逸らして尊くんに私は言う。

「だから、俺という存在を知ってほしいんだ。友達としてではなく、男として」

尊くんは私の目をずっと見てきた。
私は目を逸らせなかった。
あまりにも真剣だから。

「………ゴメン」

私は謝りながら、頭を下げた。

「……そんなはっきりと言われたら、なんとも言えないよ。少しでも恋愛対象として見れない?」

尊くんは目を細めて、私の顔を伺うように聞いてきた。

「…ゴメン」

私は下に俯き、返事をした。

「……好きなやつでもいるの?」

尊くんは私の真正面に向き直して、私に聞いてきた。

「…いる」

私は下を向き少し間を置いて、頷いた。

「本当に好きなんだ」

尊くんは顔を見なくても、悲しい表情をしていることくらい声で分かった。

「うん。だから、ゴメン」

私は下に俯いた後、尊くんの横顔を見据えた。
ただ尊くんは、目の前にある厨房を見つめていた。

「分かった。だけど、暦がまた泣くようなことあったら、俺許さないから。その時はいつでも連絡してこい。じゃあ、俺行くわ」

自分の中で尊くんは納得したのか分からないが、右手を振ってから私に言った。

「…待って。尊くん、ありがとう」

私は立ち上がった尊くんを見て、私は立ち上がって、お礼を言う。

「ああ。じゃあ」

尊くんは返事をしてから、まだメニューも来ていないのに、帰ってしまった。

私は一人残されて、呆然と考え込んだ。
尊くんが高校の時から好きだったなんて、当時の私は知らなかった。

少し考え込んで、私は仕事へと戻った。
あと、明日の夜、恵くんと会うことになっている。きちんと、話さないといけない。

自分の気持ちを話すんだ。
相手が傷ついても、私の今の気持ちを伝えないと。