雅さんの最寄り駅に着くと、タイミングが悪いことに雨が降り出した。
小雨だったのもあり、雅さんの傘に二人が入る。
肩が触れ合う距離に雅さんはいた。
あ、嫌だな。
あの日も雨だった。
怖がってる私を、あいつは優しく笑いながら大丈夫と言って、私は本気で安心していたんだ。
できればあの頃の記憶は抹消してほしい。
「着いたよ」
雅さんの家はまだ建てられてそんなに日が経っていない、新しいアパートだった。
アパートにしては少し広めの家だったけれど。
家の中に入って最初は適当にくつろいでいた。
夕飯も済ませ、各自お風呂に入る。
夜の時間に近づくにつれ、あいつとの記憶が濃く思い出された。
ダメだ、もうあいつはいないんだから忘れろと呪文のように頭で繰り返す。
お風呂から上がった後は髪を乾かした。
髪が乾くと、雅さんが上がるのを待った。
だんだんと夜が深くなっていく。
一人の空間は、さらに私を過去へと縛らせた。



