お願い、好きって言わないで。




「じゃあお願いしようかな、ありがとう」
「ああ。これぐらい普通だけどな」

「そんなことをさらっと言えるところがすごいよね。
良い旦那さんになるよ、将来」

「綾ちゃんこそ良い嫁になるな。
こんな人を嫁にできる俺は幸せ者だな」

「なっ、何言ってんの!」

まるで智也と結婚するのが決まっている、みたいな言い方。
そんなことないというのに。


「事実だろ?」
「年下には興味ありません」

年下には興味なんてない。
ただし、智也を除く。


もちろんそんなことは本人に言ってやらないけれど。


「綾ちゃんらしいな」
「何がよ」

「ツンデレなところ?」
「……帰る」

智也に馬鹿にされ、腹が立った私。
けれど智也は何も言わない。

「帰るのか?」
「……っ」

「俺は帰って欲しくないけどな」


引き止めはしないけれど、そんな風に甘いこと言って。
私の心を揺らがせるずるい人間。

もちろん私は帰る気なんてないし、イライラも治ってしまうから不思議だ。


「じゃあ早く洗い物して」

智也から視線を外し、ソファに座る。

テレビではバラエティ番組がやっており、興味はなかったけれどなんとなく眺めていた。