俺の恋人曰く、幸せな家庭は優しさと思いやりでできている「下」

クリスタルは風呂場のドアを開けて中に入って行く。その顔は、憂いに満ちていた。

対策本部にいた頃は、毎日のようにクリスタルは笑っていた。こんな世界でよく笑えるな、とあの頃はクリスタルを心の中で馬鹿にしていたが、クリスタルは誘拐してから一度も笑っていない。

「……何を考えているんだ、俺は……」

心の中に芽生えた思いに、俺は自分で自分を思い切り殴りたくなった。

クリスタルは長風呂だ。まあそれだけ丁寧に洗ってくれているのだろう。その方がいい。

一時間ほど経って、クリスタルは風呂場のドアを開ける。

「お待たせ……」

「いや?問題ない」

うつむくクリスタルの手に、俺は握りしめていた手錠をかける。風呂上がりのクリスタルの手は、いつも以上に温かい気がした。

「行くぞ」

俺はクリスタルの腕を掴み、また地下室へと向かう。俺は誘拐犯、クリスタルは人質。それ以上のことは存在しない。

隣を歩くクリスタルは、俺のシャツとズボンを履いている。女物の服を俺が買ったら一発で警察が嗅ぎつける。だから、クリスタルには俺の服を着せていた。