そんなサクタに返す言葉が見つからなくて、何も言えずに黙り込むと、サクタがうつむいていた顔を上げて俺のことを見た。


「何かごめんね……」


 謝るサクタに俺は首を横に振った。


「いいんだ、どうせ俺も大したこと言えないし」


 本当に、俺はどうしようもない奴なんだ。こんな時に彼女へかけてあげるべき言葉が思いつかない。
 中途半端に「大丈夫」だなんて言うのはあまりにも無責任だ。だって苦しいのも、悲しいのも、辛いのも、全部サクタなのだから。大丈夫かどうかなんて、そんなのはサクタだけにしか分からない。
 ……でも、それでも。こんな俺にも何かできることがあるとしたらそれは。


「俺はサクタの気持ちを全部分かってやることはできないけど、大事にしたいってちゃんと思ってるから……話しを聴いてサクタが少しでも前に進めるなら俺はいつだってどこだって、サクタの気持ちを受け止めてやるよ。だから、もう泣くな」


 そう言うと、サクタは真っ赤になった瞳から涙をポロポロとこぼした。それを慌てて拭いながら、サクタが笑う。
 ボロボロと止め処なく溢れる涙を何度も拭いながら、それでも嬉しそうに「あはは」と声を上げて笑った。


「泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」


 そう言ってやるとサクタは「嬉しいから泣けるし笑えるの」と答えた。


「ありがとね、タヌキチ」
「こんなことで良ければいつでも」
「頼りになるね」
「今頃気づいたか」


 そんな冗談を言うとサクタは真っ赤な顔をまた笑顔で染めた。
 降り積もる雪で一面真っ白な景色の中、その時に見たサクタの笑顔がやけに綺麗だと思った。

 その瞬間の、目も心も全部を引きつけられるような感覚を俺はきっと、一生忘れない。
 サクタの手を握る手に自然と力がこもった。俺の体温に染まったその手を握りしめて確信した。もうとっくに、俺は彼女にすべてを奪われていたんだと。
 まったく、無意識に相手をこんな気持ちにさせるなんて恐ろしい女だ。鈍感で、弱虫で泣き虫で、機械音痴で、色気なんてなくて、女としてどうなんだってレベルの奴なのに。それでも俺は、そんなサクタが好きだ。


「帰ろうサクタ」
「……うん」


 願わくば、いつでも彼女にとって近い存在でいられますように。
そんな、俺がまだ一年生の頃の、昔話。



20160723
20190412