翌日、私立大葉高校の門の前。
たかがこれだけのために仕事は早引きしてきた。



流石は私立高校というだけあって、お金持ちそうな校舎だった。


通っている生徒達も気品に溢れていて、もしかしたらここはお嬢様学校なのかもしれないと思った。


生徒手帳にある顔写真を確認して、その持ち主を探す。
生徒は、門の前に立っている40歳のサラリーマンをフシギソウにちらちら見ながら下校して行った。
それもそのはずだろう。
明らかに僕はこの場に不釣り合いだった。



居心地の悪さを感じた僕は、早く持ち主を見つけて帰りたかった。なのにその主は見つからない。

もしかしたら委員会とか部活とかで夜遅いのかもしれない。早引きしたのは無駄だったのかもしれないと感じ始めた。


僕は引き返して帰ろうとした。
するとーーー。



「おぅわ!びっくりした!」


何気なく目の前の夕日を見上げたら、木の上に女の子が座っていた。


ーーーあの子だ。


生徒手帳に書いてあった名前を思い出す。
大澤里奈。


里奈が声を発した僕の方を見下ろした。
その綺麗な美貌は、間違いなく里奈だった。


自然な明るい茶色のストレートの髪に、白い肌、桃色の形の良い唇。細過ぎず、太ってもいない肉付きの良い体。


里奈は、僕を不思議そうな顔して見ている。
それも当然、40歳のサラリーマンが私立高校の前に立っているんだから。



僕は里奈に声をかけた。
「あの!カフェで生徒手帳落としましたよね」



里奈は首をかしげたあと、制服のポケットを探ってから「あっ」という顔をした。


そして木から飛び降りると、僕の元へ駆け寄ってきた。


僕は思わず顔を逸らす。
今どき見せパン?とかいう黒いスパッツみたいなやつ履いていても、スカートの中が見えるとドキッとしてしまう。



「すみません、私のです。ありがとうございます」




里奈は丁寧に頭を下げた。
僕は手を胸の前で振って、

「いやいや、ただ拾っただけだから!頭上げて!」
「でもわざわざ持ってきてくれて…。助かりました」



ふわりと微笑んだ表情は、昨日見た彼女より幼く見えた。昨日はきっと、化粧と服装で大人びて見えたのだ。
今どきの女子高生の私服は大人っぽい子が多い。



僕は一目惚れしたことを言おうとしてぐっと堪えた。彼女からしたらただのおじさんに過ぎない。