「オムライスでいいか?」

「うん」

『待ってろ』と言って、すぐ奥に入っていくコウ兄の背を見送った後、店内を見渡す。

平日の夕方だからか、それとも、高橋さんが来ない日だからなのか、私以外誰もいない。

ビールをチビチビと飲んでいると、隣で笑う人の幻が見えるなんて、どれだけ彼が好きなのだと呆れていた
ら、オムライスを持ったコウ兄が奥から出てきた。

「うわー、美味しそう」

早く頂戴と手を出したが、ヒョイとかわされる。

「なんで…よ」

「それはこっちのセリフだぞ。なんで、あいつから逃げてるんだ?」

「あいつって?」

誰のことかとしらばっくれるが、あいつと言ったら一人しかいない。

「重症だな…あいつとなにがあったか聞いても答えないんだろう?」

「なにもないよ。はじめっから」

頑なな私に、コウ兄は、呆れたようにため息をついた。

「あいつは、昔から女の方から寄っていくから、女に苦労したことがないんだ」

そんなのいわれなくても隣で見てたからよーく知ってますよと、愚痴りながら、オムライスを奪うタイミングを図っている。

「女に逃げられてるなんて、初めてじゃないのか⁈まぁ、モテない俺に言わせたら、ザマーミロだ」