「生きてるカニを見るなんて、5年…ううん8年ぶりくらいだよっ。 凄いねーっ」
「お前ってほんっとインドアなのな。 唐草 美麗…弟の和真はあちこちに出かけて色々な写真を撮ってアップしてるのに」
「私は私っ、和真は和真だよっ。 あぁー、逃げちゃったー……」
上から見下ろす人間を警戒してか、カニは素早い動きで遠くへ逃げていった。
「残念。 もうちょっと見たかったのに」
「追いかける?」
「ううん、無理に追い回したら可哀想だから」
「だな」
人間だって、無理に追い回されたら嫌な気分になる。
カニがどう思うかはわからないけど……でも これ以上追いかけるのはやめることにした。
「それにしても、ここは本当に気持ちいい場所だね」
「気に入ってくれてよかった。 そのうち また一緒に来ようぜ」
「うんっ。 ……あっ、でも電車の中では私に話しかけないでよっ? 目立つのって ほんっとに嫌なんだからっ」
「はいはい、わかったわかった」
「とか言って、普通に話しかけてくるんだろうなぁ……。 で、当たり前のように「みぃ」って呼んで、また私がイライラする、と」
「大丈夫。 もう迷惑はかけないようにするよ」
ポン、と私の頭を叩いたあと、時雨くんはゆっくりと立ち上がった。
つられるように、私も立つ。
「……あのさ、お前って“目立つこと”が嫌いなだけで、“俺”を嫌ってるわけじゃないんだよな?」