「なぁ、ちょっと聞いていい?」
「はいはい、なんですかー」
「あのさ、相手が俺じゃなくてトラだったら、街中とかでも普通に一緒に行動すんの?」
「え? 伊勢谷くん?」
んんー……どうだろう……。
伊勢谷くんと一緒でも かなり注目されるだろうから……答えは「NO」…かな。
「相手が伊勢谷くんでも やっぱり嫌だよ。 だって、目立つ人と一緒に居ると こっちまで目立っちゃうでしょ? 私、そういうのが嫌いなの」
「……へぇ」
「え、何? なんで意外そうな顔をするの?」
「いや…ちょっとな」
階段の1番上に立った時雨くんが、私に手を伸ばす。
全力疾走の疲れがまだ抜けていないから、素直にその手を借りることにした。
やっと防波堤の1番上だ。
「わぁ」
……青く澄んだ空と、白い砂浜。
太陽の光りを反射させる海は、波間がキラキラと輝いている。
人はまったく居らず、さながらプライベートビーチのようだ。
「メッチャ綺麗っ」
「有名な海水浴場と比べると、かなり小さい砂浜だけどね」
「でも、だからこそ人が居なくていいんじゃない? 砂浜の貸し切りなんて初めてかもっ。 あっ、砂浜に下りる階段もあるんだねっ。 行こうっ」
今度は私が時雨くんの手を引いて下りる。
素敵な砂浜を見たら、疲れなんて一気に吹っ飛んだ。



