「……時雨くん、ちょっと止まって」

「ん?」

「手、痛いから離してください。 それと、外で「みぃ」って呼ぶのやめてって言ったよね?」



電車の中での1時間の苦行から解放された今、時雨くんに対するイライラが爆発寸前になっていた。



「電車の中でメチャクチャ注目されてたし、ほんと最悪な気分なんですけど」

「注目…されてたか?」

「すっごく見られてました」


「んなもん知るかよ、他人の目なんか放っとけ。 それよりもさ、早く来いって」

「ちょっ…だから痛いってばっ……」



握られた手は離れない。 離してくれない。

和真と伊勢谷くんに助けを求めようと振り返るけど、二人は二人で何やら話をしていて……こっちはまったく見ていなかった。



「時雨くん、離してっ……」

「やだ」

「……やだ、って…そんな子供みたいなこと……」


「ごめん、もうちょい我慢して。 ほんと、マジで頼むよ」



どんどん歩くスピードが速くなる。

これはもう…走ってると言っていいくらいのスピードだ。