隣を歩いているのに、私と伊勢谷くんの間に会話はない。

今日までずっと喋ったこともなかったんだから、当然と言えば当然だ。


伊勢谷くんは人気者だから、もちろん私は伊勢谷くんのことを知っている。

でも伊勢谷くんは……私のことなんか知らなかったと思う。


1年生の時も、2年生になった今もクラスは違う。

私は帰宅部だし、委員会とかで一緒になったこともない。

たまにすれ違うことはあっても、目すら合わない。


伊勢谷くんは、生徒指導の先生に頼まれたから私を呼びに来ただけ。

それだけだ。

むしろ それだけでいい。


人気者の伊勢谷くんと一緒に居ると、当たり前のように目立ってしまう。

今も、すれ違った人たちが珍しい組み合わせに驚き、二度見三度見するくらいに ざわついている。

……別の場所に向かうのを装って、少しだけ距離を開けて歩こう……。


だって ザ・平均 を突き進む平凡な女子に、人気者のキラキラは眩しすぎるもんね。



……ところで伊勢谷くんは、どこに向かってるんだろう?