ーーー4年前。
桜吹雪が綺麗な、西町の中学校で試合があった。
俺はケガで試合にも出れないし、少しふてくされながら縁石に座り、散る桜を眺めていた。
「すみませーん!ボールとってくださーい」
フェンスの向こうで練習している女子から声をかけられた。
「はい」
ちゃんと、顔が見える位置まで来た時には、もう目を奪われていた。
桜のピンクに
黒髪が余計に映えた。
「…あの!」
「へ?」
「もしかして…顔に当たりました⁈」
「ま、まあ…」
鈍臭い自分と、知らない子に目を奪われた自分、両方に赤面。
「ごめんなさいっ!ちょっと待って」
そう言ってポケットから絆創膏を取り出す
「いや、このくらい大丈夫だから」
「いやいや!血出てるから!
はやくほっぺを前に出してくださいっ」
金網のフェンスごし。
指先だけを伸ばして、
その手が俺に触れた。
多分、この桜くらい、俺の顔は染まっているはず。
「できた。」
「ありがと」
「本当にごめんなさいっ。
あと、足、はやく治して試合出てくださいねっ」
「え、俺のこと知って…」
「知らないよ、でも明中のバスケ強いでしょ?
5番。おそろいだからっ」
「……」
この日、俺は雷に打たれたように名前も知らない子に恋をしてしまった。
名前も聞けなかったし、何も情報もない。
多分、同じ年。
綺麗な黒髪のストレート。
優しい笑顔。
それだけの情報。