倉科実結という学生が現れてから、ユウキは、十数年ぶりに心穏やかな毎日を送っていた。



しかし、ある日の午後、ユウキがいつものように研究室で本を読んでいると、ドアをノックする音がして倉科が現れた。



彼女は、めずらしく元気がなさそうな声で、「先生、先生にお尋ねしたいことがあります。今、お時間はよろしいでしょうか」と聞いてきた。



「はいはい、いいですよ。何かね? 研究のことかな?」。



彼女は、「いえ、違います……」とちょっと言いにくそうにした。