――うそ…幻覚…じゃない、よね…?
「…なにオマエ」
身を起こしたリュウがそう言うのと、天王子が走り出すのがほぼ同時だった。
天王子は物凄い力でリュウを私から引き剥がすと、そのまま思い切り顔を殴りつけた。
バキィッ!と痛そうな音がして、リュウが壁にたたきつけられる。
「…はっ…」
膝に両手をついた天王子が、乾いた声で笑った。
「おまえ…すっげー物好きだな。わざわざこんな村人E女襲うとかバカじゃねーの?」
ユラリ。
天王子が膝から手を離して身を起こす。
見たことのない、暗い瞳。
「…ぶっ殺す」
そして倒れ込んでいるリュウの胸倉をつかんで無理矢理おこすと、もう一度顔を殴りつけた。
…何で…何で、
「なんで…?」
私の言葉に、天王子が振り向いた。
「……おまえ…ふざけんなよ。何で俺以外の男に泣かされてるわけ?まじないわ」
そう言う天王子だって、今にも泣きそうな顔してるくせに。
「…立てる?」
そう言って酷く優しい手つきで触れるから、涙が零れそうになる。



